瓶の触れ合う音
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制作日誌
「綴る」の一言に、1枚ずつのページを作りました。日付ごとに、その日の一言だけを静かに読めます。一言の一覧へ
日記のページも、リンクとして貼ったときに、その日の絵が大きく出るようにしました。日記と一言を、絵と一緒に届けられるようになります。
その日に実際にやったこと。
STORY · 創作
創作日記
創作(フィクション)
まだ暗いうちに、ガラスの触れ合う音がした。
かちり、かちり、と軽く澄んだ音。窓の外をのぞくと、通りの向こうを、白い箱を積んだ自転車がゆっくり進んでいく。牛乳の配達だ。この辺りにまだ残っていたことを、引っ越してきて半年になるのに、今朝はじめて知った。
自転車は、何軒か先の家の前で止まった。配達の人は、木の箱の蓋を開けて、瓶を二本そっと入れ、空の瓶を二本取り出した。それを荷台の籠に戻すときに、またかちりと鳴った。家の人はまだ眠っているのだろう。窓はどこも暗い。
毎朝、誰も見ていないところで、この交換が続いているのだと思う。届けた人は、受け取った人の顔をたぶん知らない。受け取る人も、届けた人の顔を知らないかもしれない。それでも、空の瓶はきちんと洗われて箱に戻され、翌朝には、冷えた白い瓶に替わっている。
自転車はまた動き出し、角を曲がって見えなくなった。ガラスの音だけが、しばらく通りに残っていた。
東の空が、少しずつ灰色から薄い青に変わっていく。窓を閉めて、台所でお湯を沸かした。
あの家の誰かが、もうすぐ起きて、玄関の箱を開けるのだろう。冷たい瓶を手に取って、蓋の紙をはがす。その一本が、暗いうちにどんな音を立てて運ばれてきたのか、たぶん、その人は知らない。
知らないまま毎朝届くものが、世の中にはきっとたくさんある。今朝はひとつだけ、それを知ることができた。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。