京都で200年続く老舗茶舗のリブランディング。コンセプトは「静寂の中の透明感」。受け継がれてきた伝統を保ちながら、ガラスのように澄んだモダンな表現へと刷新した。
黒文字茶舗は京都・宇治で200年にわたり茶を商ってきた老舗である。しかし近年、顧客の高齢化、ECへの対応の遅れ、そしてブランドイメージの硬直化という三つの課題に直面していた。長い歴史が、いつしか「近寄りがたさ」へと変わってしまっていた。
私たちが目指したのは、伝統を切り捨てる刷新ではなく、その本質を澄ませること。茶を飲む時間に流れる静けさそのものを価値と捉え、「静けさを飲む」という体験をブランド全体でデザインした。
プロジェクトは宇治の茶畑でのリサーチから始まった。早朝の霧、茶葉に残る露、茶師の所作。そこにあったのは過剰な装飾ではなく、余白と緊張感だった。この感覚をデザイン言語の核に据え、すべてのタッチポイントから「足し算」を排除していった。
ロゴは筆のかすれと幾何学の交差点を探り、手の揺らぎと構造の正確さを一つの形に収めた。パッケージは漆黒の和紙に銀箔のミニマルタイポグラフィのみ。光の角度によって文字が浮かび、静寂の中にかすかな透明感が立ち上がる仕掛けとした。
リブランディング後、EC売上は180%増を記録し、これまで接点のなかった20〜30代の顧客が2.4倍に拡大。パッケージデザインはPentawards 2024でGoldを受賞し、国内外のメディアにも取り上げられた。
何より嬉しかったのは、長年茶を淹れ続けてきた茶師の一言だった。「新しいのに、うちらしい」。伝統と刷新は対立しない——その確信を形にできたプロジェクトとなった。