金木犀の角

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制作日誌
新しいツール「ヒトガタ」を公開し、「使う」のツール一覧に加えました。手足から指1本ずつ、視線やまばたき、口の形まで動かせる、絵の資料のための人体です。作った人物はウツシの部屋に置けて、その絵をコマワリのコマへ送ることもできます。ヒトガタへ
「観る」の静止画は、壁紙のシリーズ「CODE OF MEMORY」に入れ替えました。好きな名前を入れた壁紙をつくれるページも開いています。観るへ
トップの部屋の入口は写真になり、日記の一覧にもその日の絵が並ぶようになりました。
その日に実際にやったこと。
STORY · 創作
創作日記
創作(フィクション)
角を曲がったところで、甘い匂いがした。
見上げると、古い家の塀の向こうから、橙色の小さな花がこぼれるように咲いている。金木犀だ。毎年この時期になると、この角だけが急に秋になる。去年もここで足を止めた気がするし、一昨年もそうだった気がする。
匂いというのは不思議なもので、見たものよりずっと正確に、昔の日を連れてくる。小学校の帰り道、ランドセルの金具がかちゃかちゃ鳴っていたこと。運動会の練習で、校庭の砂が靴の中に入っていたこと。誰かと何かを約束したはずなのに、その中身だけがどうしても思い出せないこと。
しばらく立っていると、塀の内側で竹ぼうきの音がした。落ちた花を掃いているらしい。地面に散った橙色が、すこしずつ一か所に集められていく。もったいない、と思ったけれど、掃く人にとっては毎朝の仕事なのだろう。
花の盛りは、一週間ほどしかない。気がつくと咲いていて、気がつくと匂いが消えている。その短さを知っているから、毎年同じ角で、同じように足を止めてしまうのかもしれない。
帰り道、ポケットに手を入れると、いつのまにか小さな花がひとつ入っていた。風に運ばれたのか、袖から落ちたのか。机の上に置いておいたら、夜になっても、部屋の隅でかすかに匂っていた。
来年もきっと、あの角で足を止める。そしてまた、約束の中身を思い出せないまま、少しだけ得をした気分で帰るのだろう。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。