切手の行き先
STORY · 創作
創作日記
創作(フィクション)
引き出しの奥から、使いかけの切手シートが出てきた。
十枚綴りのうち、残っているのは三枚。灯台の絵柄で、海の青がすこし褪せている。いつ買ったのか、残りの七枚を誰に送ったのか、まるで思い出せなかった。
七通も手紙を書いたのなら、覚えていてもよさそうなものだ。けれど記憶の棚を探っても、宛名はひとつも出てこない。
夕方、郵便局へ行ったついでに、窓口の人にそのシートを見せてみた。
「ああ、これは何年か前の灯台シリーズですね」と、その人は懐かしそうに言った。「この絵柄、海辺の町に宛てる人が多かったんですよ。なんとなく、届きそうな気がするんでしょうね」
海辺の町。そう言われると、ひとつだけ思い当たる住所があった。昔、短いあいだ暮らした町の、小さな文房具屋。閉店の知らせを受けとって、お礼の葉書を出したことがある。
あれが一枚目だったのかもしれない。残りの六枚は、やはり思い出せない。
家に帰って、残りの三枚を眺めた。誰に宛てるか決めないまま、一枚だけ葉書に貼ってみる。灯台の光が、白い紙の隅で小さく灯った。
宛名は、明日考えることにした。書くことが決まるまで、この葉書は机の上で、ゆっくり行き先を待っていればいい。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。