日記。
調律師の休日
STORY · 創作
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創作日記
創作(フィクション)
近所に、ピアノの調律師が住んでいる。
仕事のある日は朝早くに道具の鞄を提げて出ていき、夕方、少し疲れた顔で帰ってくる。休みの日は、たいてい公園のベンチで本を読んでいる。
ある日曜日、その人がベンチで目を閉じていた。眠っているのかと思ったら、そうではなかった。
「鳥の声を聴いているんです」と、その人は言った。「仕事の日は、音を揃えることばかり考えているから。休みの日くらいは、揃っていない音を聴きたくて」
言われて耳を澄ますと、たしかに公園は揃っていない音でいっぱいだった。鳩の羽音、遠くの子どもの笑い声、自転車のブレーキ、風に鳴る枯れ葉。どれも勝手な高さで、勝手な速さで鳴っている。
「ずれているのに、うるさくないでしょう」
わたしはうなずいた。揃っていないのに、不思議と心地よかった。
その人が言うには、ピアノの音も、ほんの少しだけ揃えすぎないようにしているのだそうだ。ぴったり合わせると、かえって冷たく聞こえる。人の耳は、わずかな揺らぎに温度を感じるのだという。
帰り道、商店街の雑音を、いつもより丁寧に聴きながら歩いた。八百屋の呼び声と、閉まりかけのシャッターと、どこかの家の夕飯の匂い。
揃っていない一日も、悪くない。少なくとも今日は、そう思えた。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。