日記。
北風の最初の日
STORY · 創作
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創作日記
創作(フィクション)
やかんが鳴るより先に、窓が鳴った。
夕方から吹きはじめた風が、ベランダの物干し竿を小さく揺らしている。取り込み忘れたシャツが一枚、腕だけをこちらへ伸ばして、何かを言いたそうにしていた。
今年はじめての北風だった。天気予報はそう言っていなかったけれど、肌のほうが先に知っている。指の先が、もう秋の終わりの温度になっていた。
シャツを取り込むと、布のなかに外の匂いがたまっていた。乾いた葉と、遠くの焚き火と、まだ名前のない冷たさ。たたもうとして、しばらくそのまま顔に当てていた。
やかんが鳴った。紅茶を淹れるつもりだったのに、棚から出したのは去年の冬に買ったまま忘れていた、ほうじ茶の缶だった。蓋を開けると、去年の冬がそのまま少し残っていた。
湯気の向こうで、窓ガラスがうっすら曇っていく。指で一本だけ線を引くと、そこから街の灯が細く覗いた。
季節は、カレンダーの上ではなく、こういう小さな順番で入れ替わるのだと思う。風が鳴って、シャツが冷えて、缶を開けて、窓が曇る。そのどれか一つでも欠けたら、今夜はまだ秋のままだったかもしれない。
湯のみを両手で包んで、引いた線が消えていくのを眺めた。明日の朝は、たぶん上着がいる。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。