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綴る · 日記 — Writing · Diary

2026年11月7日(土)STORY · 創作

水たまりの信号

STORY · 創作

創作日記

創作(フィクション)

水たまりの中で、信号が青に変わった。

夕方まで降っていた雨が上がって、交差点の手前に、大きな水たまりがひとつ残っていた。風がやんでいて、水面は鏡のように静かだ。逆さまの電柱、逆さまの電線、そのずっと奥に、逆さまの信号機が小さく光っている。

赤から青へ。本物の信号と、水たまりの中の信号が、まったく同じ瞬間に色を変えた。当たり前のことなのに、なぜか少し驚いた。

横断歩道を渡る人たちの足が、水たまりの縁をよけていく。誰も下を見ない。ときどき、自転車のタイヤが端をかすめて、水面に細い波が立つ。そのたびに、逆さまの街はゆらゆらと崩れて、しばらくするとまた元の形に戻る。

子どものころ、水たまりを覗きこむのが好きだった。底のほうに、もうひとつの空があるように見えた。そこに落ちたら、逆さまの街を歩けるのではないかと、本気で考えていた。長靴でそっと縁を踏んで、空が割れるのを確かめたりもした。

今は、さすがにそこへ落ちるとは思わない。それでも、信号が変わるのを、もう一度だけ、水の中で見たくなった。歩道の端に立って、待つ。

赤。しばらくして、また青。

隣で同じように信号を待っていた小学生が、ちらりと水たまりを見て、それから、わざと真ん中を踏んで渡っていった。ぱしゃん、と大きな音がして、逆さまの街はばらばらになった。

波紋がおさまるまで、少しだけ見送ってから、わたしは縁をよけて渡った。振り返ると、水の中の信号は、もう何事もなかったように、静かに青く光っていた。

この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。

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