柵の上の手袋
STORY · 創作
創作日記
創作(フィクション)
公園の柵の上に、片方だけの手袋がのっていた。
毛糸で編んだ、小さな赤い手袋だ。親指のところに、白い雪の結晶の模様がひとつ。子どもの手にちょうどいいくらいの大きさで、指先が少しだけ毛玉になっている。柵の先の杭に、指を広げるようにかぶせてあった。
誰かが落としたのを、通りがかりの誰かが拾って、目につく高さに置いたのだろう。持ち主が戻ってきたとき、すぐ見つけられるように。地面に落ちたままでは、踏まれたり、風に飛ばされたりしてしまう。
杭にかぶせられた手袋は、まるで小さな手を振っているように見えた。ここだよ、と言っているみたいに。
この公園の前は、朝と夕方に通る。朝見たときは、まだそこにあった。夕方、帰りに通ると、手袋はなくなっていた。
持ち主が見つけたのか、それとも風に飛ばされたのか。柵のまわりの地面を見てみたけれど、赤いものは落ちていなかった。たぶん、ちゃんと持ち主のところへ帰ったのだと思う。そう思うことにした。
拾って置いた人と、取りに来た人は、きっと会っていない。名前も顔も知らないまま、手袋ひとつ分だけ、ふたりの一日がつながった。
こういう小さな受け渡しが、街のあちこちで、誰にも気づかれずに起きているのかもしれない。ベンチに置かれた傘、塀の上の鍵、植え込みに引っかけられた帽子。見かけるたびに、少しだけ手を貸した誰かがいる。
風が冷たくなってきた。自分の手袋を出して、はめた。左右そろっているのが、なんだか今日はありがたかった。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。