刃を研ぐ音

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制作日誌
「使う」の無料ツールに「クッキリ」を加えました。ぼやけた写真の輪郭を整えたり、小さな画像を大きくしたりできます。ドット絵は、ぼかさずにそのまま大きくできます。直す前と後を並べて見比べられます。画像は端末の中だけで処理します。クッキリへ
「使う」のテンプレートとツールの並びも、ほかの部屋とそろえました。いちばん新しいものを大きく見せ、続きを横一列に並べています。ヒトガタ・コマワリ・ウツシには、リンクを貼ったときに出る絵も付けました。使うへ
その日に実際にやったこと。
STORY · 創作
創作日記
創作(フィクション)
台所の奥から、しゃっ、しゃっ、と規則正しい音がしていた。
月曜の夜、帰ると、同居している叔父が流しの前に座りこんで、包丁を研いでいた。濡らした砥石を布巾の上に置き、刃を斜めにあてて、手前から奥へ、ゆっくり押し出す。その繰り返し。
声をかけようとして、やめた。叔父の背中は、話しかけてはいけない形をしていた。冷蔵庫から麦茶を出して、少し離れた椅子に腰かけた。
砥石の上を、灰色の水がにじんでいく。研ぎ汁というのだと、前に教わった。刃が少しずつ削れて、石と混ざったものだ。叔父はときどき指で刃先をそっとなぞり、光にかざして、また石に戻す。急がない。数をかぞえている様子もない。たぶん、手が、そろそろだと教えてくれるのを待っている。
子どものころ、この音が苦手だった。何かが削られていく音は、少しこわい。けれど今夜は、なんだか落ち着く。毎日使って丸くなった刃が、少しずつ元の形を思い出していく音に聞こえた。
やがて叔父は手を止め、刃を水で流して、新聞紙を一枚切ってみせた。紙は、音もなく二つに分かれた。叔父はそこで初めてこちらを見て、満足そうにうなずいた。
研いだ包丁で、叔父はトマトを薄く切った。皮に刃が吸いこまれるように入っていく。塩をひとつまみ振っただけのトマトが、驚くほどおいしかった。
道具は、使えば鈍くなる。だから、ときどき研ぐ。言葉にすると当たり前のことが、台所の灯りの下で、ずいぶん大事なことのように思えた。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。