砂の城の持ち主
STORY · 創作
創作日記
創作(フィクション)
日曜の夕方、公園の砂場に、城がひとつ残されていた。
子どもの膝くらいの高さで、塔が三本。いちばん高い塔のてっぺんには、アイスの棒が旗のように刺さっている。堀にはまだ少し水が残っていて、傾いた日の光を細く返していた。作った子はもう帰ったらしく、まわりには誰もいない。
ベンチに座って、しばらく眺めていた。よくできている。城門のところだけ、指で丁寧にならした跡がある。たぶんそこが、いちばん気に入っていた場所なのだろう。
散歩の犬が近づいてきて、匂いを嗅いで、何もせずに行った。鳩が一羽、塀の上に降りて、すぐに飛んだ。風が少し出てきて、いちばん低い塔の角が、さらさらと崩れはじめた。
直してやりたい気もしたが、やめておいた。持ち主に断りなく手を入れるのは、どうも落ち着かない。それに、崩れていく途中の城というのも、案外悪くない眺めだった。
帰りがけ、砂場の縁に小さな字で何か書いてあるのに気がついた。木の枝で引いたような、ゆらゆらした線。「あした つづき」。
翌朝、通勤の途中に回り道をして、公園をのぞいてみた。城は夜露で少し低くなっていたけれど、旗はまだ立っていた。その横で、黄色い帽子の子がしゃがみこんで、黙って塔を積み直している。
声はかけなかった。続きは、持ち主の仕事だ。
この文章は創作(フィクション)です。登場する出来事や人物は実在のものではありません。